
**火妖人(びようじん)とは**、孤独から生まれた「心の炎」
悩みや苦しさの中で、何も言わずにそばにいて、
静かに支え続けてくれる存在です。
ーー増田ヨシヒロ
夢の終わりが変えたもの
夢の終わりが、
こんなに人を変えてしまうのか。
プロ野球の夢を追いかけていたあの頃、
心が折れそうになった出来事があっても
私は夢に支えられて生きていました。
けれど、その夢が消えると同時に
支えてくれるものは何もなくなってしまったんです。
気がつけば、
自分の中から「恐怖」という感情が消えて、
わずか数メートルの囲いの中だけで
生きていた。
私に近づいてきたものはすべて排除した。
クラスの人間も、家族も、街の人たちも、
すべてが敵に見えていたのです。
もう一人の私
ある日の通勤電車。もう一人の私がいた。
俺の前にサラリーマンが座っていた。
二十歳ぐらいの男だった。
俺はそいつを睨み付けた。
「何見てんだよ。」10秒ぐらいだったろうか。
そしてそいつは目をそらした。
「なんだ、弱っちいやつだなあ。」俺は思った。
それ以来、毎日のように、電車の中でガンをたらした。
どいつもこいつも情けねえ奴らだ。
その時は、自分が一番弱いことを知らずにいた。
真夏の夜の出来事
私は自転車で盆踊りの会場へ向かった。
楽しそうだとか、にぎやかだなあとかも考えず、
無感情のままそこに立っていた。
炭鉱節。
人々が輪になって踊っていた。
そして突然、誰かが俺にぶつかってきた。
「何ぶつかってんだ。」
俺はにらみをきかせて言った。
相手も「やるかこのやろう。」といって喧嘩が始まった。
相手は6人くらいいた。俺はひとりだった。
そして、喧嘩が始まった。
「ドス、ブス、、ウッ……」
「痛え、このやろう……」
その時、もう俺には失うものが何もなかった。
怖いという文字は俺の辞書の中から消えていた。
そして、警察が来て喧嘩は収まった。
火妖怪の沈黙
そして、いつもにやにや笑っていた火妖怪も、
俺の前から姿を消したように感じた。
そして、半年が過ぎました。
ある日、突然、虚しさが押し寄せてきたんです。
暴れまくった反動だったのかもしれない。
「死にたい」
そう思うようになりました。
けれど、死ぬことはできませんでした。
弱くなった炎を抱えた火妖人が、
どこかで私を守ってくれていたのです。
孤独の始まり
人が恐くなりました。
毎日、震えていました。
友達もいない、
また3歳の孤独が始まりました。
あれほど強かったはずなのに、
自信は消え、
自分自身さえ見えなくなっていました。
再生のきっかけ
そんなある日のこと。
教室の隙間から、
ギターの音が聞こえてきました。
楽しそうに歌っている3人の姿。
少しだけ、立ち止まって見ていると――
「よかったら、入ってくれば。」
私は、少し空威張りな顔で
「はい。」と答え、恐る恐る中へ入りました。
「ギター弾けるの?」
「はい……少しだけ。」
そんな会話が、5分ほど続いたでしょうか。
けれど、そのときの私は思っていました。
「なんだ、女みたいなギター部なんて、誰が入るか。」
そう言って、その場を離れたのです。
音楽の記憶
しかし――
帰り道、ふとよみがえってきました。
小学6年生の音楽の授業。
あの胸の奥が震えるような感動が。
校歌「清らな窓よ……」
あの映像がよみがえってきたんです。
「……やってみるか。」
力のない声で、そうつぶやいたとき、
火妖人が、小さく「うん」とうなずいてくれた気がしました。
ギター部へ
そして翌日。
私は、ギター部に入りました。
このときはまだ、
自分がレコードを出すことになるなんて、
想像すらしていませんでした。
先輩との出会い
ギター部の先輩の家は大衆食堂をやっていました。
カレーライス100円、豚汁定食150円だったかな。
目の前が千葉大だったので、
毎日学生さんらが食べに来ていました。
よく泊まりに行って面倒も見てくれました。
そんな親切な先輩は、
音楽を丁寧に教えてくれました。
たくさんレコードがあり、驚きました。
「たかし君。歌はコード進行で作ったらだめだよ。」
「ギターを持たないで、心の中でメロディーを作るんだ。」
と教えてくれました。
はじまりの曲
そして、最初で最も小さな一歩となる曲を二人で作りました。
「渋谷の街を歩き回り、素敵な彼を見つけましょう。」
これは、卒業して、東急百貨店に入ってからの話でした。
学びの始まり
私は小学六年生まで、国語はずっとオール1。
おバカさんだったんです。
そして、はじめて本を買って勉強をしました。
作詞の本、サラリーマン話法、会話の仕方など、
生涯初めての勉強でした。
今も思いますけど、当時は詩ではなかった。
「君に会わなければ歌を忘れたでしょう。
壊れかけた部屋に明かりがついてた」
今でも恥ずかしいけど、歌だからいいか。
そんな感じでした。
ひどかったです。
でもそのお陰で、今ブログを書いている。
わらっちゃいます。
卒業、そして次へ
先輩が卒業する前に、私はギター部の部長を任されました。
文化祭や発表会など、みんなで楽しくできたと思います。
どういう心境だったかわかりませんが、
自費でドラムセットをお茶の水まで買いに行きました。
バイトをしてためたお金です。
みんな楽しく使ってくれました。
ただ、私が卒業するころには、後輩に壊されてしまいましたけどね。
あまり腹も立たなかった自分がいたことを覚えています。
そして月日は流れ、
卒業を迎えることになりました。
エピソード:火妖怪の声
就職先は、小さな証券会社でした。
けれど、またあの声が聞こえてきます。
「おまえは、まだだめだ。
おまえは小さい。」
火妖怪のささやきでした。
新たな舞台へ
結局、親に説得され、
東急百貨店へ入社することになりました。
そして――
「彼はまだ見つからない」という名曲が誕生したのです。
つづく


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